家族信託にかかる税金(課税関係)について

家族信託を利用した場合、信託した財産の所有権は形式的に受託者に移転します。
しかし、税務上、信託財産は受託者が所有しているとは考えません。
信託財産から生じる利益を享受する者として、受益者が信託財産を所有しているものと課税法上は考えます

さて、では、家族信託ではどのような税金がかかるのか見ていきましょう。
なお、ここでは一般的な課税関係について取り上げますが、具体的な税金額等に関しましては、税務の専門である税理士にご相談ください。

 

※ ここでは原則的な「受益者等課税信託」(家族・親族間での信託、受益証券を発行しない信託等)について取り上げています。

1 自益信託の場合(委託者=受益者の場合)
 1-1 信託設定時の課税関係 
 1-2 信託期間中の課税関係
 1-3 信託終了時の課税関係

2 他益信託の場合(委託者≠受益者の場合)
 2-1 信託設定時の課税関係
 2-2 信託期間中の課税関係
 2-3 信託終了時の課税関係

3 信託変更時の課税関係
 3-1 受益者の変更(受益権の譲渡)
 3-2 受託者の変更

4 受益者死亡時の課税関係
 4-1 受益者死亡時に信託終了する旨の定めがある場合
 4-2 受益者連続型信託の場合

5 流通税(登録免許税、印紙税、不動産取得税)




1 自益信託の場合(委託者=受益者の場合)

自益信託とは、委託者と受益者が同じ場合の信託を言います。

【例】
委託者:
受託者:息子
受益者:

信託設定時の課税関係

冒頭でも申し上げました通り、家族信託では受益者をベースに課税関係を考えます。

つまり、自益信託の場合、信託前の財産の所有者(委託者)と、信託後の財産の所有者(受益者)が同一人物のため、信託財産の経済的価値は移転していないと考えます。
所有者が実質的には変更されていないと考えるため、信託設定時に課税関係は生じません。

但し、下記5のとおり、流通税(登録免許税、印紙税)は発生します。

信託期間中の課税関係

信託財産に属する資産及び負債や、信託財産から発生する収益及び費用は受益者に帰属するとされています。

信託財産に、賃貸アパートなどの収益物件が含まれているような場合、当該所得に関する税務申告は受益者自身が行うことになります。

信託終了時の課税関係

家族信託では、信託終了時の残余財産の帰属先を自由に定めることができます。
残余財産が、信託期間中の受益者から誰に帰属することになるのか(財産が実質的に移転しているかどうか)がポイントです。

上記例の場合に、父が有する有価証券を、父が委託者兼受益者、息子を受託者として信託設定していたケースで、当該信託が終了したらどうなるか考えてみましょう。

① 残余財産の権利帰属先が父(受益者)の場合

この場合は、実質的に権利は移転していないと考えられるため、課税関係は生じません。

なお、このケースの父は受益者だったことから、帰属権利者ではなく残余財産受益者と言います。(詳しくは「残余財産受益者と帰属権利者の違いは何ですか?」をご覧ください。)


② 残余財産の帰属権利者が父(受益者)以外(ex,息子)だった場合

信託の終了によって息子が残余財産(有価証券)を取得します。

この場合は、父から息子へ経済的価値(実質的な所有権)が移転している、つまり、贈与があったものとみなされて、息子に贈与税が課税されます。

なお、受益者の死亡を原因として信託終了する場合には、遺贈とみなして相続税が課税されることになります。



2 他益信託の場合(委託者≠受益者の場合)

他益信託とは、委託者と受益者が異なる場合の信託を言います。

【例】
委託者:
受託者:息子
受益者:

信託設定時の課税関係

上記例の場合、信託の前後で経済価値(実質的な所有者)が父から母へ移転します。
つまり、父から母への贈与があったものと考えて、母(受益者)に贈与税が課されます。

なお、この場合、父は財産を贈与したとされるだけなので課税は生じませんし、受託者である息子に関しても信託財産を管理する地位を有しているだけなので課税されません。


※ このケースで、母が適正な対価を支払った場合には、母に贈与税は課されず、委託者父に対して譲渡所得税が課税される可能性があります。

信託期間中の課税関係

信託財産に属する資産及び負債や、信託財産から発生する収益及び費用は受益者に帰属するとされています。

信託財産に、賃貸アパートなどの収益物件が含まれているような場合、当該所得に関する税務申告は受益者である母が行うことになります。
 

信託終了時の課税関係

上記自益信託の場合の「信託終了時の課税関係」と同様です。

3 信託変更時の課税関係


受益者の変更(受益権の譲渡)

受益権を譲渡したことにより、受益者が変更した場合には、旧受益者から新受益者へ信託財産の経済価値(実質的な所有権)の移転があったものとして、贈与税(適正な対価の支払いがない場合)や譲渡所得税(適正な対価の支払いがあった場合)が課税されます。

受託者の変更

辞任や死亡等によって受託者の変更があった場合、課税関係は生じません。あくまでも、課税関係は受益者ベースです。

なお、信託財産に不不動産が含まれている場合などは、受託者変更登記が必要になりますが、受託者変更登記の登録免許税も非課税です(登録免許税法第7条1項3号)。

4 受益者死亡時の課税関係



受益者死亡時に信託終了する旨の定めがある場合

信託を終了させるタイミングは、信託契約の中で設定することが可能です。

受益者が死亡した場合に信託を終了させる旨の定めをした場合、上記「自益信託の場合の信託終了時の課税関係」と同様です。

受益者連続型信託の場合

(受益者連続型信託についてはこちらをご覧ください。)

受益者連続型信託では、当初受益者が死亡した場合、第二受益者への受益権の遺贈があったものとして相続税が課税されます。
同じように、第二受益者が死亡した場合、第三受益者へ受益権の遺贈があったものとして相続税が課税されます。

5 流通税(登録免許税、印紙税、不動産取得税)

登録免許税

信託財産に不動産がある場合には、信託登記をする必要があります。

信託登記における登録免許税は次の通りです。

土地・・・固定資産税評価額×0.3%

建物・・・固定資産税評価額×0.4%

印紙税

信託契約書には1通200円の印紙税がかかります。

不動産取得税

信託設定時、不動産の名義は委託者から受託者に変更されますが、受託者に不動産取得税はかかりません。

 

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