信託開始後、受益者を変更することはできますか?
可能です。
信託設定後、信託期間中に受益者を指定・変更する権利をそれぞれ「受益者指定権」・「受益者変更権」(2つまとめて「受益者指定権等」)と言います。
受益者指定権等は、信託設定時に受益者は複数いるけれども最終的には1人に絞りたい場合や、事情の変更により受益者を変更する可能性がある場合などに利用されます。
活用場面としては主に「事業承継」を目的とする信託で考えられます。
例えば、長男を受益者(後継者)として指定していたが、長男が後継者にふさわしくない事が判明したので、受益者を次男に変更したい、というような場合です。
仮に、信託を使わずに株式や事業用不動産等を長男に譲渡(贈与等)した場合には、その後に長男ではなく次男を後継者にしたいと思っても、既に事業用資産は長男の所有(名義)になっているため、長男の協力がなければ次男に変更することはできません。
そうなると円滑な事業承継がストップしてしまう可能性も出てきます。
一方、受益者指定権等を設定している信託では、現受益者の承諾なく受益者を変更できるので、このような事業承継の停滞を防ぐことができます。
なお、受益者変更権によって新たに受益者になった者には贈与税が課税されることになります。
上記で言うと、長男から次男に受益権が移転していると考えるため、長男から次男への贈与と税務上はみなされます。
また、既に贈与税を負担している長男からは受益者を外されたことによる不平・不満が出る恐れもあるので、その点もカバーする必要がありますね。
少し話は変わりますが、受益者指定権等と機能的に類似しているものとして「裁量信託」というものがあります。これについてはまた取り上げたいと思います。
なお、受託者が受益者指定権等を有する信託も裁量信託の一種と言えるかと思います。
受益者指定権等の行使方法
次のいずれかの方法によって行使します。
① 受託者に対する意思表示
② 受益者となるべき者に対する意思表示(※)
③ 遺言
※ 受託者が受益者指定権等を有する場合