任意後見と任意代理(委任)の違い
認知症などの判断能力が低下した者のための制度として「成年後見制度」があります。
興味のある方は比較として「民事信託(家族信託)」についてもご覧ください。
民事信託(家族信託)も相続・認知症対策として有効な制度です。
そして成年後見制度には「法定後見」「任意後見」の2つがありますが、今回はその内の任意後見制度と委任について解説していきます。
【メニュー】
1 任意後見と任意代理(委任)の概要
2 どちらの制度を利用するべきか
2-1 ケース➀(任意後見契約を検討した方がいい場合)
2-2 ケース②(委任契約を検討した方がいい場合)
2-3 ケース③(委任と任意後見契約の2つを検討した方がいい場合)
2-4 ケース④(任意後見契約を検討した方がいい場合)
2-5 ケース⑤(委任契約を検討した方がいい場合)
3 まとめ(比較表)
任意後見と任意代理(委任)の概要
「任意後見」も「任意代理(委任契約)」(以下「委任」という。)もどちらも財産管理や身上監護を他人(家族やその他の者)に任せる制度です。
任意後見は意思能力低下後に備える制度であり、委任は意思能力低下前に備える制度です。
そして、どちらも契約行為です。任意後見は任意後見契約によって行い、委任は委任契約によって行います。
つまり、契約の段階では意思能力が必要です。
任意後見も委任も意思能力がある内でなければ契約をすることができません。
(既に意思能力が低下してしまっている場合は法定後見を検討することになります。)
また、任意後見契約は契約した段階では意思能力はある状態なので、その時点では財産管理などは自分で行います。
任意後見契約の効力が発動するタイミングは、意思能力が低下した段階(認知症など)で、裁判所に任意後見契約等を提出し、任意後見監督人が選任された段階で初めて任意後見契約の効力が発動します。
これは、契約を締結した時に効力が発動する委任契約とは異なる点の1つです。(委任契約の場合には、その効力発生時期を定めることもできます。)
どちらの制度を利用するべきか
どちらの制度も似ているように感じますが、財産管理や身上監護を任せる場合に、どちらの制度を使えばいいのか悩む場合もあるかと思います。
その場合、次のような判断基準で検討してみてください。
ケース➀(任意後見契約を検討した方がいい場合)
現在、判断能力に問題はない。
今後も自分で財産管理などはできるけど、万が一判断能力が低下して認知症などになった場合には家族や第三者に財産管理などを任せたい。
ケース②(委任契約を検討した方がいい場合)
現在、判断能力に問題はない。
ただし、今すぐにでも財産管理や身上監護を家族や他人に任せたい。
ケース③(委任と任意後見契約の2つを検討した方がいい場合)
現在、判断能力に問題はない。
ただ、自分はもう高齢であるので、今すぐにでも財産管理や身上監護を家族や他人に任せたい。
※意思能力がある内は委任契約で対応して、意思能力が低下した段階で任意後見契約を発動させるという2段構えでもOK。その場合には、任意後見監督人の選任によって委任契約が終了するように定めておくのがよいでしょう。
※委任契約よりも本人保護の法整備がされている任意後見契約のみを選択するのもあり。
ケース④(任意後見契約を検討した方がいい場合)
現在、判断能力はあるが、少し物忘れなどが出てきて心配になってきている。
今の内に財産管理などを誰かに任せてしまいたい。
※法定後見を検討することも可能ですがここでは省略します。
ケース⑤(委任契約を検討した方がいい場合)
現在、意思能力には問題がないが、身体の不自由により日常生活の財産管理などが難しいので誰かに任せたい。
まとめ(比較表)
任意後見契約 | 委任契約(任意代理) | |
任せられること | 財産管理・身上監護 | 財産管理・身上監護 |
契約行為か否か | 契約行為 利用するには意思能力が必要 |
契約行為 利用するには意思能力が必要 |
契約書を公正証書で作成する必要があるか? | 要 | 不要 但し、公正証書が望ましい |
効力発生時期 |
任意後見契約締結後、意思能力が下がった段階で裁判所に申し立てをして、任意後見監督人が選任された時 |
委任契約締結時 (別段の定め可) |
監督人(監督者)の有無 | 有 (任意後見監督人) |
無 (監督者を付けることも可) |
報酬の有無 | 有 (任意後見監督人への報酬) |
無 (受任者へ支払う定め可) |
裁判所の監督下におかれるか? |
おかれる ※定期的に裁判所への報告義務あり |
おかれない |
本人の意思能力低下によって終了するか? | しない むしろ、本人の意思能力が低下してから任意後見の効力を発動させる。 |
しない 但し、本人の意思に沿った財産管理等が難しくなるため、成年後見制度(法定後見or任意後見)へ移行させるべき。 |