売買契約後に売主又は買主が死亡した場合の登記
不動産の売買契約締結後に売主又は買主が死亡した場合、売買契約は無効になるのか、登記手続きはどうするのかを解説していきます。
なお、不動産の売買の流れとしましては、売買契約締結(売主と買主が売買契約書に署名押印)をしてから売買代金を買主が売主に支払う日(決済日)まで期間が空くことが通常です。
ケースによってまちまちですが1か月前後空くことが多いと思います。
なので、売買契約締結してから決済日までに当事者が亡くなってしまうことは実際に起こり得ることです。
売買契約は無効になる?
売買契約締結後に売主又は買主が死亡したとしても、原則として売買契約は無効にはならず有効な契約として扱うことになります。
その場合には、通常、相続人が対応をすることになります。
売買契約後に売主が死亡した場合の登記
売買契約締結後に売主が死亡した場合でも契約は有効です。
売主の相続人が契約を履行することになります。
ではこの時、売主の相続人名義に相続登記を申請した上で買主への売買による所有権登記を申請するのか、それとも、売主の相続人への相続登記を省略して直接売主から買主に所有権移転登記をすることができるのかが問題になります。
ここでポイントになるのが「売主が死亡した時点で所有権が買主に移転しているかどうか」です。
通常、不動産の売買契約書には“所有権移転時期の特約”が設けられており、買主が売主に売買代金を支払った日(決済日)に所有権が移転するとされていることが多いです。
そうなると、必要な登記としては次のように考えることができます。
売主が死亡した時点で、買主がまだ売買代金を支払っていなかった(所有権は売主にある) 場合の登記
① 相続登記(売主の相続人への所有権移転登記)
② 売買登記(相続人から買主への所有権移転登記)
売主が死亡した時点で、買主が既に売買代金を支払っていた(所有権は買主にある) 場合の登記
① 売買登記(売主から買主への所有権移転登記)
※ 相続登記省略可能
なお、買主への所有権移転登記をする前に、売主の相続人が売買契約の存在を知らずに相続人名義への相続登記を申請して完了してしまった場合、相続登記を抹消せずに相続人から買主名義への売買による所有権移転登記が可能とされています(昭37.3.8民甲638号回答)。
売買契約後に買主が死亡した場合の登記
この場合も、基本的な考え方は売主が死亡した場合と同じです。
つまり、買主が死亡した時点で所有権は買主に移転していたかどうかがポイントです。
少し言い方を変えますと、売買契約締結後、決済日(買主が売主に売買代金を支払う日)までに買主が死亡したのかどうかです。
なお、買主死亡の場合には、買主の地位を相続人が受け継ぎますので、相続人が売買を続行する意思があるのかどうかが問題になってきます。
手付倍返しで契約を解除するのか、相続人の誰かが買主の地位を引き継いで売買を続行するのか、また、購入に際して買主が住宅ローンを利用する場合には、当該審査の絡みもありますので、事前に不動産屋や銀行との調整が必要になるでしょう。
ここでは、買主の相続人は売買を続行する意思があるという前提で考えます。
買主が死亡した時点で、買主がまだ売買代金を支払っていなかった(所有権は売主にある) 場合の登記
① 売買登記(売主から買主の相続人へ所有権移転登記)
※ 相続人が複数いる場合には、買主の地位を誰が相続するかについての遺産分割協議書を作成することも検討する必要があるでしょう。
買主が死亡した時点で、買主が既に売買代金を支払っていた(所有権は買主にある) 場合の登記
① 売買登記(売主から亡買主名義への所有権移転)
② 相続登記(亡買主から相続人名義への所有権移転)
なお、「売主は相続人に対し年月日売買(亡買主との売買日)を原因とする所有権移転登記手続きをせよ」という判決がある時は、売主から相続人名義への所有権移転登記が可能とされています(昭35.2.3民甲292)。
2022.3.17投稿